建設業における廃棄物リサイクル:処理費削減と地域共生を叶える中小企業の具体策
建設業界では、新築工事から解体、改修工事に至るまで、多様な建設廃棄物が発生いたします。これらの廃棄物の適切な処理は、企業の環境負荷低減への責任であると同時に、年々増加する処理費用が経営を圧迫する大きな課題ともなっております。多くの経営者が、環境配慮の重要性は理解しつつも、「コスト増につながるのではないか」「現場の負担が増えるのではないか」といった懸念から、具体的な取り組みに踏み出せない状況も散見されます。
本稿では、そうした中小企業経営者の皆様の懸念を払拭し、実践的なヒントを提供するため、建設廃棄物のリサイクルを推進することで、コスト削減と地域貢献、さらには企業価値向上を実現した地方の中堅建設会社の事例をご紹介いたします。この事例が、皆様のサステナブル経営推進の一助となれば幸いです。
企業概要と取り組み前の課題
今回ご紹介するのは、従業員約50名を擁する地方の総合建設会社、株式会社「地域建設サービス」様の事例です。同社は、戸建て住宅から商業施設、公共施設まで、多岐にわたる新築・改修工事を手掛けております。
同社が建設廃棄物のリサイクルに本格的に取り組む前は、以下のような課題を抱えておりました。
- 廃棄物処理費の高騰: 建築資材の高騰と合わせ、建設廃棄物の最終処分費用も増加の一途を辿り、年間数千万円規模の処理費用が経営を圧迫しておりました。
- 環境規制の強化: 国や自治体による環境規制が年々厳しくなり、廃棄物の適正処理に加え、リサイクル率向上への対応が求められておりました。
- 地域からの要請: 地域住民や取引先からも、環境配慮型の企業活動への期待が高まっており、企業イメージ向上と地域共生のためにも、より積極的な環境活動が不可欠であると認識されておりました。
これらの課題に対し、経営層は「単なるコストと捉えるのではなく、未来への投資として積極的に取り組むべき」との判断を下し、廃棄物リサイクルを通じたサステナブル経営への転換を決意されました。
具体的なサステナブルな取り組み内容とその実施方法
地域建設サービス様が実施した主な取り組みは以下の通りです。
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現場での分別徹底:
- まず、現場作業員全員を対象に、建設廃棄物の重要性、分別基準、リサイクル後の用途に関する研修を実施し、意識改革を促しました。
- 現場には、木くず、コンクリート塊、アスファルト塊、金属くず、廃プラスチック、混合廃棄物など、細かく分類された複数の分別コンテナを設置。明確な表示と写真付きのマニュアルを掲示し、誰もが迷わずに分別できる環境を整備しました。
- 現場責任者による定期的な分別状況のチェックとフィードバックを行い、高品質な分別を維持する体制を構築しました。
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自社での中間処理設備の導入と再生資材化:
- 分別された建設廃棄物のうち、特に量の多いコンクリート塊やアスファルト塊については、自社工場敷地内に破砕機と選別機を導入し、中間処理を開始しました。
- 破砕されたコンクリート塊は「再生砕石」として、アスファルト塊は「再生アスファルト合材」の原料として、高品質な再生資材に生まれ変わらせました。
- 木くずはチップ化し、一部は燃料として活用し、残りは地域の堆肥製造業者へ提供いたしました。
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再生資材の積極的な活用と外部販売:
- 自社で生産した再生砕石や再生アスファルト合材は、自社の工事(道路工事の下地材、埋め戻し材など)で積極的に使用することで、新規資材の購入量を削減しました。
- 自社での利用以外にも、品質が安定している再生資材は、地域の建設会社や土木業者にも販売を開始。新たな収益源を確保しました。
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地域企業との連携:
- 自社で処理できない廃プラスチックや金属くずについては、地域の専門リサイクル業者と密接に連携し、確実に再資源化されるルートを構築しました。
- 地元自治体との連携も強化し、災害時における廃棄物処理の協力体制を構築するなど、地域社会への貢献にも積極的に取り組みました。
導入プロセス、かかったコストと運用上の負担
取り組みの導入は、まず経営層が明確なビジョンを打ち出し、全社的な合意形成から始まりました。具体的なプロセスは以下の通りです。
- 現状分析と目標設定: 過去の廃棄物排出量、処理費、リサイクル率を詳細に分析し、数年後の具体的な目標数値(例:廃棄物処理費20%削減、リサイクル率80%達成)を設定しました。
- 専門家との連携: 建設廃棄物リサイクルに関するコンサルティング会社を招き、最適な設備選定、補助金情報の収集、法規制への対応について専門的なアドバイスを受けました。
- 設備投資と補助金活用: 破砕機や選別機といった中間処理設備の導入には、約4,000万円の初期投資が必要でした。しかし、国の「中小企業等経営強化法に基づく補助金」や、地方自治体の環境関連補助金を活用することで、実質的な企業負担は約1,500万円に抑えることができました。
- 従業員教育とマニュアル化: 現場での分別を徹底するため、全従業員を対象とした複数回の研修と、視覚的に分かりやすいマニュアルを整備しました。初期段階では、現場作業員からの「手間が増える」といった意見もありましたが、経営層が直接、環境貢献の意義と、将来的なコスト削減効果を説明し、理解を求めました。
運用上の負担としては、中間処理設備の維持管理費用(電気代、部品交換費用など)が年間約200万円発生します。また、現場での分別作業に要する時間や手間も増加しましたが、これは後の運搬コスト削減や、従業員の環境意識向上といった形で、投資対効果として評価されています。特に、分別作業の習熟度向上と、リサイクル資材販売による収益が、これらの負担を大きく上回る結果となりました。
取り組みによって得られた具体的な成果
地域建設サービス様のサステナブルな取り組みは、多方面にわたる顕著な成果をもたらしました。
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コスト削減:
- 導入から3年で、年間廃棄物処理費を約30%削減することに成功いたしました。具体的な削減額は年間約1,000万円に上ります。
- 自社で生産した再生砕石を積極的に活用することで、新規資材の購入費用も年間約500万円削減いたしました。
- 再生資材(再生砕石など)の外部販売による新たな収益が、年間約300万円発生し、総体的なコストメリットを享受しております。
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企業イメージの向上と新たな取引先の獲得:
- リサイクルへの積極的な取り組みは、地元自治体や大手ゼネコンからの評価を高め、公共工事の入札において有利な条件を得られるようになりました。実際に、環境配慮を重視する自治体発注の大型公共工事を受注することに成功しております。
- 「環境に配慮した企業」としてのブランディングが確立され、環境意識の高い顧客からの新規問い合わせが増加。新たな顧客層の開拓にも繋がっております。
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従業員のモチベーション向上と生産性改善:
- 自社の取り組みが地域社会や環境に貢献していることを実感することで、従業員の環境意識と仕事への誇りが大幅に向上しました。「自分たちの仕事が未来に繋がる」という意識が、チーム全体の結束力と生産性向上に寄与しております。
- 現場での分別徹底は、廃棄物の運搬回数を削減し、現場の効率化にも繋がりました。また、安全管理の意識向上にも波及効果が見られました。
- 若手社員を中心に、企業の社会貢献への取り組みを重視する傾向が強まり、離職率も以前と比較して約5%低下いたしました。
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持続可能なサプライチェーンの構築:
- 再生資材の活用は、新規資源への依存度を低減し、資材調達の安定化にも寄与しております。資源価格の変動リスクを低減できる点も、経営上の大きなメリットとなっております。
他社への示唆
地域建設サービス様の事例は、建設業におけるサステナブル経営が、単なるコストではなく、むしろ企業価値を高め、新たな収益源を生み出す可能性を秘めていることを示しております。この事例から、他の中小企業が学ぶべきポイントは以下の通りです。
- 段階的な取り組みの重要性: 最初から大規模な投資を行う必要はありません。まずは現場での分別徹底や、少量の廃棄物からの再生資材化など、自社の規模や状況に合わせたスモールスタートが有効です。
- 従業員の意識改革と巻き込み: 経営層の強いリーダーシップのもと、従業員一人ひとりにサステナブル経営の意義を理解してもらい、日々の業務に落とし込むことが成功の鍵となります。教育研修や、成果の共有を通じて、モチベーション向上を図ることが重要です。
- 外部リソースの積極活用: 補助金制度の活用、専門コンサルタントとの連携、地域の専門リサイクル業者との協業など、自社だけで抱え込まず、外部の知見やネットワークを積極的に活用することで、効率的かつ効果的な取り組みが可能となります。
- 情報開示と地域連携: 自社のサステナブルな取り組みを積極的に情報開示することで、企業イメージ向上に繋がります。また、地域社会との連携を深めることは、新たなビジネスチャンスの創出だけでなく、企業が地域に根差した存在となる上で不可欠です。
サステナブル経営は、現代の企業にとって避けて通れないテーマであり、環境負荷低減だけでなく、コスト削減、企業イメージ向上、新たな市場開拓、従業員エンゲージメントの強化といった多岐にわたるメリットをもたらします。ぜひ、本事例を参考に、貴社でも一歩を踏み出すきっかけとしていただければ幸いです。